TeikyoSat-4というプロジェクトの概要を教えてください。
国際宇宙ステーション(ISS)が高度400キロを周回していて、そのISSのマイクロ化が、今回の多目的宇宙環境利用実験衛星のプロジェクトの目的です。
マイクロ化というのは日本が得意な分野で、地球観測衛星や天文観測衛星など大型の数mサイズの衛星をマイクロ化しようという動きは全国的なところであります。
大学やベンチャー企業など、いろいろな機関が衛星のマイクロ化にチャレンジしているので、宇宙環境を利用した実験施設をマイクロ化したものがあってもいいんじゃないかと思ったのが、今回の衛星の提案のきっかけですね。
それを思いつくに至ったのは、何かきっかけが?
前回のTeikyoSat-3プロジェクトでは最後までミッションができなかったんです。でも運用期間でその貴重なデータが取れたので、この運用結果を踏まえて、さらに発展させて、大学でチャレンジできる50センチサイズで宇宙環境を利用した実験ができる衛星ができないかなと思ったのがきっかけです。
ロケット打ち上げの先にはどのような世界が開いていくとお考えですか?
宇宙分野は、「一般人にどう影響するのか?」「どういう効果があるのか?」「フィードバックがあるのか?」と言われてしまうことが多くあると感じます。
今回の打ち上げ後すぐに何かが得られるかというと、そうではないと思います。
例えば国際宇宙ステーションの微小重力空間は、老化を進める可能性があると言われています。筋肉の衰えなどの老化実験を、国際宇宙ステーションで人間が実施して帰ってくるというのはなかなか難しいので、まずは細胞レベルで実験して、それを地球に還元することで、超高齢化社会を迎える将来の医療の発展に貢献することは可能なのではと考えています。
宇宙開発には、携わっている大学生をはじめ、小学生・中学生・高校生に対する教育的な側面と、産業的な側面があります。今、自動車産業や航空機産業が栃木県内で盛んですので、その産業技術を使って宇宙産業も盛り上げていきたいと考えています。10社以上の企業を巻き込んでプロジェクトをやっている狙いがそこにありますね。
企業を巻き込んでプロジェクトを成功させて、この企業さんにはこんな実力がありますよということを私たちと一緒に証明できれば、栃木県内の企業に宇宙関係の仕事を依頼しようといった話が舞い込んで、宇宙産業が少しずつ県内に芽生えていくのだと思っています。
教育的な効果と産業的な効果を栃木県内から発信しながら、重要な学術的な研究成果も得られると考えています。
実際に衛星開発は大変なことが多いと思いますが、どのようなことが大変ですか?
学生の奮起を促すということがプロジェクトとしては難しいですね。
学生が危機感を持ってやれるようになって、一生懸命考えて、個別の試験をやったときにうまくいけば小さな成功体験になります。
しんどいことが続いた先にある小さな成功体験を少しずつ経験して、最終的に打ち上げ成功という大きな成功体験を得られるといいのかなと思います。
打ち上げが決まってからの方が大変でしょうか?
打ち上げという目標がないと、目標がない中でモチベーションを維持して開発していくのも結構大変です。でも打ち上げが決まったら限られた時間で期限に間に合わせるなどの大変さがやっぱりありますね
中学生・高校生に向けてメッセージをお願いします
実際に宇宙開発の現場は、つらいことがたくさんありますが、つらい経験を乗り越えた先というのは、その経験をした人にしかわかりません。それが今私たちは衛星開発という分野でやっていますが、それは高校の部活でも受験勉強でも同じだと思います。
今つらい経験をしているかもしれないけれど、そういう経験が、将来こういうことをやりたいという夢ができたとき、困難を乗り越えていくきっかけや、大きく自分を変えるきっかけになると思っています。
息抜きは必要ですが、逃げずに正面から立ち向かっていく経験は大事なのかなと思いますね。つらい経験が後の人生に役に立つことはいっぱいあると思っていますし、やっぱり楽なことばかりやっていては、夢って実現できない気がします。
なので、つらい経験や失敗も大事だということをお伝えしたいですね。
大阪大学工学部地球総合工学科卒業。 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。 博士(工学)。 2019年4月より現職。